ひとやすみエッセイ◆5◆「音楽の恵み」
2015年08月13日

大震災から4年余り、「福島の復興は長期戦、気力・体力の維持こそ基本課題だ、元気を出していこう」という試みが色々となされている。

その一つが「スマイル アゲイン フロム イワキ」という合言葉で毎年続けられている市民によるコンサートだ。主役は「ジャミン ゼブ」という男性4人グループ。平均年齢31歳、平均身長180センチ、全員日本人だが3人はハーフ。そのスタイル、英語の発音、ジャズを中心にした選曲に、何か新しい日本人の出現を見たような気がした。会場の大半は女性、平均年齢は詳しく計算できなかったが、いずれにしろ大盛況。「毎年上手になっているわ」と、ある女性が彼らの成長を楽しむように言っていた。

ジャズやゴスペルなども大変良かったが。会場が一番元気をもらったのはハワイアンだったのではないか。地元の女子中高生5人のチーム「ウイラニ ホアヘレ」が賛助出演し「月の夜は」をバックで踊った。その健気な笑顔に、この4年間を乗り越えてきた若い力を感じ、感動した。割れんばかりの拍手が起こった。

さてこの数ヶ月、夜寝入る時に音楽を聴いている。中心はバッハ・モーツァルト・ベートーベンだ。若い頃からグレングールドというピアニストのバッハを聴いてきたが、最近読んだ本の中に「バッハの平均律クラヴィーア曲集が音楽の『旧約聖書』だとしたら、『新約聖書』はベートーベンのピアノソナタ曲集である」という言葉を見つけた。それでバックハウスによるベートーベン・ピアノソナタ全集(全32曲)を求め、「旧約・新約」を交互に聴いている。確かにベートーベンになると内省的・叙情的、言わばより近代的な要素が加わり、「新約」との指摘は言い得て妙かもしれない。

モーツァルトについては、弦楽四重奏曲・五重奏曲の全集を聴いている。特に晩年に当たる31歳の時に作られた第3番(ハ長調)と第4番(ト短調)の五重奏曲。それは、もはや「聖書」というより「天上の音楽」だ。もって生まれた天賦の才に加え、音楽家の父に連れられて5歳の時から始めた大旅行がそれを磨き上げ、空前絶後の音楽を生んだ。中野雄「モーツァルト 天才の秘密」(文春新書)によれば「モーツァルトは高度の作曲能力を『身に付けた』のであって、『持って生まれてきた』わけでは決してない。彼が持って生まれたのは『類い稀なる学習能力』であった」「苦しい大旅行は、好きでたまらない音楽を稀有の条件で向上させることの出来る喜びの時間だった」「こういう学習や技巧の練習に一切苦痛を覚えないという神経の強靭さこそ生得の遺伝子によるもの」とのことである。

もうひとつ、物理学者のアインシュタインもお母さんが本職のヴァイオリニストだったせいで、6歳からヴァイオリンを習い始めた。そのため左手の小指と薬指が特に発達し、それが脳に好影響を与えたとの指摘がなされている(小泉英明「アインシュタインの逆オメガ」文芸春秋)。研究所の中心に音楽ホールを作り、研究の傍らそこで皆で楽器を演奏していたエーデルマンという先生もいる。楽器演奏は手指と一緒に脳を刺激し発達させるという考え方だ。

聴くにつけ奏でるにつけ、音楽には大きな恵みがあるように思う。

(りいど27年8月号掲載)

吉田泉のエッセイ


SSL GMOグローバルサインのサイトシール 公式サイトの確認方法