ひとやすみエッセイ◆4◆「静かな酒田」
2015年07月31日

6月某日、福島市での用事を済ませた後、山形県酒田市を訪ねる機会があった。酒田は最上川河口の港町で、人口10万人。江戸時代には庄内米を大坂経由で江戸に送り出し、豪商本間家を生み、東北一の商業都市として栄えた町だ。

福島から山形新幹線で新庄へ、そしてそこから二両編成の陸羽西線に乗り換え、最上川に沿って出羽山脈を越えていく。まずは深い山の中に大河がある風景に感嘆。最上川は全長230キロ。我らが夏井川は60キロだから4倍ある。山形の高山が大河を生み、沿岸で多くの人口を養ってきた。いわきは山が低い分だけ川も短く、人口も少なかったのかと改めて思わされる。

山地を出、広々とした庄内平野を通り、酒田に到着。地元の方の酒田弁の案内で市内の名所旧跡を巡る。まずは本間家ゆかりの美術館・旧本邸・別荘。旧本邸は250年前に建てられた。庭の松は樹齢400年で「臥龍(がりゅう)の松」と呼ばれる。「おごり高ぶるな、臥せよ」という本間家の理念を表しているとのこと。成程。「本間様には及びもせぬが、せめてなりたや殿様に」と歌われた本間家だが、米の商いだけではなく、飛砂の害を防ぐ植林や公共事業で藩を支えた。その見返りに殿様から戴いた陶器類を陳列しているのが本間美術館である。歴史を感じる。

お昼は酒田名物ワンタン麺。作家の椎名誠氏絶賛の色紙が店の壁に貼ってある。確かに海鮮スープが古風かつ上品。

次に向かったのが土門拳記念館。酒田市名誉市民第一号になった写真家土門拳は全作品七万点を市に寄贈、それに応えて市は美術館を建てた。設計は谷口吉生。イサムノグチ・勅使河原宏・亀倉雄策も協力、草野心平の「拳湖」と記した銘石も人口湖のほとりに置かれている。大変立派だ。

その後、本間家ゆかりの港の倉庫群などを経て、海を見下ろす日和山(ひよりやま)公園へ。近くの古い三階建ては映画「おくりびと」の舞台となった。風情がある。そうこうする内に日本海に夕日が沈み始めた。それを見ながら魚料理屋へ。朝捕りのイカ刺し、メバルの煮付け、オコゼの唐揚げ、そして庄内米「つやひめ」のおにぎりを戴く。お酒は地元の「東北泉」。

お土産は、羽黒山ゆかりの和菓子「古鏡」と奈良漬。自分用には骨董屋で九谷の煎茶碗セットを購入、伝統ある磯草塗の急須置も一枚求めた。かっての繁栄は過去のものとなったが、その残り火を大事にしながら静かに悠然と佇んでいる町・酒田。いわきの江名地区の空気に通じるものがあった。

次の朝、早く起きたので一時間位散歩しようと思い、宿を出る。最上川が流れている。これを渡り切れば、本間倉庫の方に出られると聞いたので「よしっ」と歩き始めた。左手の鳥海山は靄っているが、右手には残雪の月山がくっきりと見える。足が弾む。大きな橋に来た。渡り切った。しかし倉庫は遠い。そしたらもう一本の川が見えてきた。今の倍くらいの幅がある。もう時間が無い。諦めて引き返しながらよく見ると、渡った大河は京田川で、その先の洋々たる大河こそが最上川だった。

(りいど27年7月号掲載)

吉田泉のエッセイ


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