ひとやすみエッセイ◆1◆「10着の服」
2015年04月30日

社会人になって40年余り。おそらく毎年一着は背広を買ってきたと思う。そうすると累計で50着くらいになる。ネクタイも然り。気が付いてみると、洋服ダンスが洋服で溢れかけている。どこに何があるのか、判然としなくなっている。ちょうど時間もできた、整理でもするか、と思った時に手にしたのが、「フランス人は10着しか服を持たない・・・パリで学んだ暮らしの質を高める法」(大和書房)という本だった。
あるアメリカ人女性が、パリのお宅にホームステイすることになったが、割り当てられた部屋に、洋服用の小型クローゼットが一つしかないのにビックリする。そしてその家の人たちが皆それで十分間に合っていることに再度びっくりする。例えばそこの主人のクローゼットには、スーツ3着、セーター3枚、シャツ4枚、ネクタイ3本しかぶら下がっていない。その少数の服を繰り返し着るのがパリジャン風なのであった。アメリカ人女性はその習慣に馴染み、いつしか「上質な物を少しだけ持ち、大切に使う」という価値観の転換を経験することになる。
これを読んでピンと来たので、私も早速に挑戦を始めてみた。3年着てないものは、これからも着ないだろうから、そういうものから処分することにした。そしてタンスを整理してみたら、なんと若い頃に外国で買った皮ジャンが出てきた。3年どころか30年も着ていない。思い出はあるが、思い切ってゴミ袋に突っ込んだ。背広、シャツ、大分やった。洋服ダンスに隙間が出来、残った服がホッとしたような雰囲気でぶら下がっている。いいことをした、パリジャン並みとは言えないが、アメリカ型の大量消費文明からは脱出、そんな気持ちがした。
同じことを本についても実行した。もう読まないと思われる本は、お世話になったものでも古紙類に出す。1月・2月・3月と3回出して、本棚もよほど楽になった。思い出の民芸品なども置けるようになり、毎日眺めるのが楽しくなった。問題はネクタイだ。40年間の時々に着けた思い出のあるものが多い。頂いたものもある。形見というものもある。なかなか思い切れない。これは第三者による査定委員会を作った方がよい、かみさんを委員長にして判断してもらおうか、と思っている。
(りいど27年4月号掲載)

吉田泉のエッセイ


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